AI-X研究機関のエレベーターに乗り込んで、会議室に向かった。
僕はまだ心の準備が出来ていたわけではない。

今回の会議には桜条の手先として存在する幹部が出席する。
桜条の執事という立場上、幹部のメンバーとは面識がある。
幹部の人間も実物の桜条要に会うことは出来ないため、
一度僕を介して桜条要に繋いでいるからだ。
その時、再会してしまった。
――鷹尾颯馬。

カラスの組織にいた時から同年代であった彼とは
よく一緒に行動を共にしていた。
頭のキレる彼は僕を度々苛立たせた。
生まれながらにしてカラスの一員として育った僕にとって
世界は敵であり、カラスという組織しか知らない無知な人間。
親がカラスの主犯格である僕が、この組織から抜け出すことは
出来ない。こんな生活に終止符を打とうと考えるのは無駄な努力。
そのはずだった。

でも、ある日ゴミ捨て場に捨てられたかのように眠る彼と出会い、
僕がそんな無駄な努力に抗う気力を得たことは、事実である。

「……あほが」
僕が彼を見て思った最初の感想だった。
戦後、無駄死にするヤツは阿保だと思っていた。
自分の親が誰に操られて、誰を騙して今の地位に君臨し
僕が生きているのかは知らないが、
世界はそうやって廻っているのだと幼心に感じていた。

「誰が……」
弱弱しい声で、微かに笑いながら言った彼の声は
僕の心を傷つけるのに十分なほど、
彼もまた無駄な努力をしたがっている人間だと主張していた。
僕が諦めていたことを、
たった1人で諦めないとそこに這う姿は
無様で。
格好悪くて。
現実から逃げている僕を苦しめた。

これが彼との出逢いだった。

一体、何を血迷わせたのか分からないが、
数年後、彼はカラスの一員として組織の中に入った。
彼は、「はじめまして、カラスの後継者さん」と言い
僕の手を引き小声で言った。
「あの日、会っていることは内密に」

鷹尾颯馬と名乗る彼は、あっという間に能力を買われ
組織に溶け込んでいた。
僕を『カラスの後継者さん』と言ったのは
きっとあの日、「……あほが」と言った僕への返答なのだろう。
それでも僕は彼と行動を共にした。
彼もそれを受け入れていた。
この世界を壊してしまいたい、そう思う共通意識は互いに感じていた
はずだったから。
きっと、彼についていけばこの組織はいずれ崩れる。
そう信じていた。
彼の指示通りに皆が動くと、不可能な仕事はないほど
スムーズに事が進んだ。
彼の知性と行動力は誰にもかなわない。
僕の座を狙っているのではと言うものも居たが、
僕にとって彼がカラスの座についてくれた方が都合がいい。
そんな好機があれば願ったり叶ったり。
金さえ手に入ればいいと考える両親はというと
鷹尾と僕に全ての指揮を任せてくれていた。

でも、神様は罪穢れだらけの僕に微笑んでくれることは無かった。
突然彼は消息を絶ち、
ヘレンローゼカッツェにいた。
仲間には、カラスにとって敵であるヘレンローゼカッツェにいる彼を
スパイだの裏切り者だといい、暗殺にかかろうとする者が多くいたが
何を考えているか分からないうちは殺すな、と阻止した。

いつだったか、彼と話したのだ。
「渓、もし俺と敵対する立場にあったとしても俺がやろうとすることは変わらない」
「鷹尾がわざわざここに入った理由もそんなとこだろ」
「まぁ、そうかもね」
もしかすると、彼の中にも葛藤があったのかもしれない。
僕は、いつしか彼がこの世のすべてを終わらせてくれると信じていた。

だが、父親が死んで状況は一変した。
桜条要という男と、マスターを名乗る2人の人間によって。
初めて僕が小さな世界に触れた瞬間、
僕は鷹尾を裏切らなければならなくなると知った。
だから、最後に秘密を教えた。
「カラスもヘレンローゼカッツェも指揮をとっているのはマスターと名乗る男だ」
その時、鷹尾の味方だと伝えるのに相応しい秘密だったはずだから。

そして、カラスの仲間全員を犠牲にして
僕は桜条要に近づいた。
鷹尾が近づいたマスターとはおそらく敵になるだろう桜条要。
罪を償い、全てを終わらせるために踏み込んだ。

まさか、
また鷹尾とこのような形で再会するとは思ってもいなかった。

僕は鷹尾颯馬という人間を理解している気になっていただけだった。
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