――あぁ、まただ。
私はゆっくりと木の音が軋むベッドから起き上がった。
私が孤児になったあの日、父は殺された。
許せなかったんだろう。父を許せない人が、この世には沢山いたんだろう。
私は曇天の心を引きずったまま成長してしまった。
だから過去の夢を見てしまうのだろう。
父を今更信じることも、許すことも、怒ることもできない。
真実を知らない私には、何の権利もないと思うから……。

「椿さん、こっちお願いします」
そう私を呼んだのは、ヘレンローゼカッツェの仲間ではない。
私が皆に話した旧友のタイガでもない。
私とタイガが知り合いで、救護を頼まれたのは嘘ではなかったが、
私が彼の班の救護に行った時には手遅れだった。
正確に言えば、ほぼ全滅の班に私が加わり、私の分の2時間も戦闘に立った
タイガが死んだのだ。
彼の悲報を聞いた時、私がタイガを殺した、そう思った。
同時にそれは起こり得ると分かっていたことだった。
腐った荒廃の地に立ち尽くしていた時、
私はある男と再会した。

鷹尾颯馬――。
「どうして」そう聞こうとした私の口を挟むように、彼は言った。
「またそんな顔して」
彼はフードを深く被ったままだったが、口元が優しく笑っていた。
久しぶりに会ったとは思えないほど自然を装って。
「椿が殺したんじゃないよ、彼が死んだんだ。どうせ死ぬんだ、って思った時、人は綺麗に死にたいって思うんだよ。彼みたいに誰かを傷付けてしまうことも考えられなくなって、自分が守ったって錯覚させて」
「椿は彼のために仕事を引き受けた。椿が彼の正義を守ったんだよ、彼の最期を守ったんだよ」

あんたに何が分かるんだよ。
ずっと居なくなってた癖に。野良猫みたいに急に現れて。
なんでこっちの事情知ってんだよ。
どうしてここに居るんだよ……。

「椿、俺と手を組まないか」
私は生き延びるためなら、きっとそっちに逃げてしまう臆病者なのだろう。
自分に戦闘の能力が皆無で、皆に迷惑をかけてしまうことを言い訳にして。
鷹尾ならきっとみんなを助けてくれるって甘えがあって。
情けない。でも、私は彼と手を組んだ。
誰にも相談せずに、ヘレンローゼカッツェを去った。
こうやって、誰かにすがらないとすぐに私は消えてしまうから。
綺麗に最期を仲間と過ごす自信も、私には無いから。
鷹尾の言うことがタイガの中で真実なら、私は尊敬するよ、タイガ。

こうして私は鷹尾に連れられて向こう側の人間になった。
AI-Xを創りだす、政府の極秘機関。
鷹尾はどうやらここの幹部にいるらしい。何故かはまだ知らない。
鷹尾が消息を断ったあの日から、彼がどのように生きてきたのかも私は知らない。
彼が言い出すまでは、聞かない。
きっと、その方が鷹尾は安心するだろうから。
聞きたかったのに聞けなくて後悔したことは沢山あるけど、
それでも聞けないのは、多分自信がないから。
何も壊したくないから。

私は医事課に配属させられ、AI-Xの研究とAI-X研究機関の従業員の治療にあたった。
私はAI-Xについて色々知ることとなった。
こんな生物に、人間が勝てるわけなくて。今も戦っている仲間は練習用のおもちゃ程度なのだと。
そして、研究観察課の人間はAI-X側としてあの戦場に敵として戦っていたのだと知った。

馬鹿馬鹿しい。
命の無駄使い。

それでも、私はそこで働いた。
薬師として薬を調合し続けた。
「椿さん、次こっちお願いします」
私を呼ぶ同業者。

周りが何を思ってここで働いているのか知らないけど、
私はただの臆病な裏切者だ。
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