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私は何故、椿という名を与えられたのだろう……。
ふと、そんな事をたまに思う。
椿の花言葉は、一般的には『誇り』や『謙虚な美徳、美しさ』なんて意味があるらしいが、裏の意味で『罪を犯す女』という意味があると、名付け親である父は言っていた。

母は、私を産んですぐに亡くなったので記憶にない。
でも、父がいたから全く寂しくは無かった。
私の父は孤児院で医者をしており、私を育てながら働く父を私は尊敬していた。
父はまだ幼い私を、仕事場である孤児院に度々連れて行ってくれた。
私は、父の仕事を見るのが好きだった。
孤児院の子供のためなら、昼夜を問わず駆けつける、そんな父を私は尊敬していた。
私は沢山の薬品に囲まれた環境で一日中遊んでいた。
たまに、父に手伝いはないかと駄々を捏ねると父は嫌な顔をせず、私に簡単な作業を与えてくれた。
父に褒めてもらえると、役に立てた気がして嬉しかった。

小学校に上がると、いつでも父の仕事が見れるように
私を孤児院の敷地内にある小学校へ入学出来るよう手配してくれていた。
その時は、父の手伝いができると思い、単純に嬉しかった。
今考えると、寡黙で必要以上の付き合いを好まない父が
何故そこまで手配したのか不思議だが、
きっと父はそれだけ権威もある方なのだろう、と当時は思っていた。

孤児院にはいろんな境遇の人が集まる、というのは知っていた。
アメリアの森という名のその孤児院は有名で、
一般的には偏見を持たれているのにも子供ながら気づいていた。
孤児院の人間もまた世間に冷たい目を向けていた。
別に親がいない訳ではないのにアメリアの森へ通う私を、
孤児達は部族の違う人間かのように私を見ていた。
「何しに来たんだ」と言わんばかりのその態度を
馬鹿らしく思って見下していた。
打ち解けられない世界だと知らずに踏み込んで、
一匹狼は哀しかったのかもしれない。

ある時、父は孤児院の医務室で誰かに追い詰められていた。
私は医務室で父の医学書を読むのが好きだったので、
その日も医務室で昼休みを過ごそうと思っていたが、
父を罵る低い声に萎縮して、ドア越しにこっそり聞いてしまった。

「なぜ、あの時助けなかったんです?」
「君も医者なら分かるだろう、助けるのも優先度を決めなければ、誰も助からなくなる」
「あの人は助かるはずだった。あんたが見捨てたせいであの人は死んだんだ」
「私には、彼を助ける理由が思い当たらない」
「あなたはいつもそうだ。自分の利益しか考えない、最低な人間だ」
私は、父を最低呼ばわりされたことに少し腹が立ったが、
その考えはすぐに裏切られた。
「あぁ。だからこうして山奥に隔離されたような孤児院で働いているんだ。別に好き好んでやる仕事なんて無い」
「考え直すなら今の内だと思ってここまで来ましたが、あなたはやはり狂ったままだ」
「金目当てのどこが狂っているのか、全く理解出来ない。結局人間は信用出来ない動物だし、死んだ彼のように、死にもの狂いで働いていた人間でも、金を払える保証ない者の身体を診てやる気なんぞ更々無い。それよりも、これから利用価値のある人間を診て、世間体が上がる方が、何とも賢い生き方ではないか」
「彼らがどのように利用されるのか、私達の業界ではもう有名な話ではないですか」
「利用されるかどうかは根拠のない未来の話だ。真相を分からないでここにいる私は、知らなかった、と後世に伝わり、ただ孤児のために働いた医者、ということになるだろう」
「もう、あなたは救いようがない。でも、あなたの娘はどうするつもりです?こんなところに居たらいずれ……」
「彼女の選択次第だ。私は彼女の人生を背負う気は無い」

この日を境に、私は父を見る目が少し変わった。
父の仕事に対する誠意は偽りで、平気で人を見捨てたのかと思うと、父の笑顔ですら信用できなくなった。
私の人生を背負う気は無い、と言ったその言葉も何だか辛かった。
私の人生は私が選択するものだ、というのは分かる。
でも、私の人生の中に父は居てくれないような気がして孤独に埋もれた。

私は、父みたいになりたく無い。
初めてそう思った。
私はその日、孤児になった。

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