2017.04.16 第13話 陰謀

あの常連客が来たのは、カラスの話を聞いて2週間ほど経った頃だった。

「マスター、あれはただもんじゃない」
「あれとは」
「こないだどんな研究か知りたがってただろう?」
常連客は目を輝かせていた。
「この研究が成功すれば日本は世界一安全な国になる」
「戦争の準備と聞いてましたが」
「戦争なんか仕掛けられてもAI-Xにはかなわんよ」
私がAI-Xを知ったのはこのときが初めてであった。
「AI-Xはどんな人間よりはるかに強い。戦車も破壊できるんだってよぉ」
「そのAI-Xという機械を研究しているのですか」
常連客の表情は一瞬にして曇った。
「まぁ、そうだな。人の形した……」
常連客は苦笑した。
「俺もうまく言えなくて悪いがよ、とにかく平和のためなんだ」
へへへ、っと苦笑しながら放ったその言葉は神妙であった。
グッと一気に芋焼酎を飲み常連客は続けた。
「カラスなんて相手にもならねえ」
そう言って笑うのだった。

カラスに関しては、要の言った通りよく耳にするようになっていた。
戦後、職を失ったやからが悪行を生業としている、と。
いくつか似た組織が出来上がっていたようだが
中でもカラスという名は知らない者がいないほど拡大し、
そして残虐であった。
戦争によって心が狂った彼らは暴れまわっていた。
しかし、捕まる者はほとんどいなかった。

のちに分かったのは、捕まえられなかったのではなく
貴重な人材ゆえに放任されていた、ということだった。

私がそれを知ったのは、常連客が帰ってすぐのことだった。
常連客はかなり酔っ払っていたため少々不安に思いながら
店じまいをし、残飯を野良猫にやりに裏口に出た時だった。

「こんなにいいんですか?」
「君の家も家族が増えて大変らしいからね」
「助かります、ほんと桜条先生には恩が返しきれねぇです」
「こちらも非常に助かっている」
「ありがとうございます」

常連客は桜条に言われてAI-Xについての話を
私に持ち掛けていたのだった。
私は呆然と立ち尽くした。
裏口から見えたその光景を今でも忘れない。
常連客は桜条から渡された封筒を大事そうに
固く胸に抱きかかえ去って行った。
桜条はその姿を見届けた後、
私が見ているのを知っていた顔でこちらを向いた。

「下準備が整った」
桜条は穏やかに笑いながら私に言った。
私は何も言葉に出来なかった。
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