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私は一階に降りながら、コートに袖を通していた。鴉川がこっちを見ている。
「少し、出掛ける。誰かが家を燃やしたせいで私物も足りないからな。」
「えー、そんなこと言ってぇ。どうせ毒ガスかなんかじゃないのぉ?僕、巻き込まれたくないんだけどー。」
そう言いながら、
ガスマスクを装着し始める鴉川。
「ほんと、ガスマスク付ける時ってメガネ邪魔なんだょね〜。まぁ、だて眼鏡だから外してても問題ないんだけどー。」
なぜ、分かった⁉︎
準備が良すぎるぞ!
しかも、だて眼鏡だったのか。
「お前は死にそうにないな…。」
ニコッと笑った。
「さぁ、死なないのは僕だけかなぁ?wきさらちゃんは、こんなんで永眠に辿りつけるのでしょうか〜?楽しみですねーw」
椿さんが毒薬の配合に失敗した事はない。
「あいつが人間なら効果はそれなりに出ると思うがな。」
「そうですかぁ〜。仲間との信頼関係、とっても僕は羨ましいと思うよ。でもねぇ、一応確認には戻っておいでよ。仮に失敗してたら、君にはまだ報酬を得る権利はないわけだし。あぁ、そうそう!きさらちゃんの好物も買ってきたほうがいい!甘い物、何でも大好きだから!」
「分かった。じゃあ、お供え物として何か買ってくることにしよう。」
「うん!僕にも!」
「お前は自分で買えっ!じゃあな!」

全く、何なんだ。
そう思いながら大きなドアを開けて外へ出た。門までが少し遠い。
そういえば、孤児院にいた頃もそうだった。まだ幼かった私にとっては、ドアがすごく大きく感じて、そして門の外へ出るのが憧れであった。その距離はすごく遠く感じて。でも、門を出た先にあったのは、生きる為に何でもしなければならない、闇の世界。ヘレンローゼカッツェ。
でも、私が一番先に向かった場所はやはりあの家だった。焼き跡がまだ残っている。
警察が張ったのであろう、立ち入り禁止のテープを潜り、敷地に入った。
鉄筋がむき出しになったその家は少し寂しかった。今にも崩れ堕ちそうだが、地下への階段を降りて行った。マスターがいつも暮らしていた部屋が地下室の奥にある。地下もかなり焼け焦げて匂いが充満していた。マスターの部屋の扉は跡形もなかった。だが、金庫だけは残っていた。始めて知った、金庫の存在。私は、革手袋をはめて金庫のドアを引いた。鍵がかかってない。そこには、一枚の写真があった。マスターが撮ってくれた、ヘレンローゼカッツェの家族写真。
「…ただいま。みんな。」
写真だけが残されたその金庫のドアを閉めてまた地上へと戻った。
何だかもう十分だったのだ。

任務を遂行する時以外で、こうしてふらふらと1人で外を出歩くことは、今までほとんどなかった。
義務教育期間中は、孤児院が通う専門の学校だったから、他のみんなも一緒だったし。友達を作る気もなかった。知識は必要だというのが、マスターの口癖でもあったから、高校は通信教育を受けさせられていた。定期的に通わなければならなかったが、内部潜入担当の私がふらふらと1人で外出するなど、あり得ない事だった。
考えてみれば、ヘレンローゼカッツェ以外の人間と親しくなることなど一度もなかった。それどころか、買い物もほとんどした事がない。服はずっとお下がりばかり着ていたし、食事は作るのが担当で材料は表に顔出ししても問題ない人の中で、ローテーションで買い出しに出ていた。
私は、急に1人で外に出ている事が不安になってきた。仕事なら、1人でも平気だったが家もなくなり、仲間も散らばり、通信手段もないこの状況が、とても怖かった。私は闇の中にいすぎて、社会に適応出来なくなっていたことに気づいた。

あぁ、しっかりしなくては…。
またみんなに会えるまで、これからは1人でうまくやっていかなければならい。

軽く深呼吸して歩き始めた。
内部潜入で出歩いた外の景色と、
こうして1人で歩いている時の景色は何も変わらない。
公園があって、子供達が走り回り、親達は井戸端会議をしている。学校があって、チャイムと同時に生徒達がぞろぞろと出て来て、グラウンドには様々な部の掛け声が響きわたる。スーパーがあって、主婦が自転車のかごに食品袋を詰め込んでいて。カフェがあって、コーヒー片手にパソコンを覗き込む会社員や、ケーキを食べながら仲良さそうにくつろぐカップルがいる…。

変わったのは私の環境だけなのだ。

私はケーキ屋に立ち寄った。
さて、お供え物の甘い物でも買って戻ろう。カップに入ったプリンアラモードを3つ注文した。1つで良かったはずなのに…でも、自然と注文してしまっていた。
まぁ、いい。任務終了の祝い事だ。
ケーキ屋を出たら、もう外は暗くなり始めていた。本当に、冬は日が暮れるのが早い。私は、早足で桜条の家に向かった。
暗くなると、私を恨むカラスどもがうろうろし始めるからだ。他にもヘレンローゼカッツェを恨む組織は多い。感覚を働かせながら、急いだ。

…誰かが跡をつけている。
高架下をあえて通った。
足音が静かなやつだ。カラスか?
私はコートの中に手を入れ、
銃を握り締めた。

「誰だ…。」
振り返ると、フードを深く被った男がいた。その、真っ黒なフード付きのコートに見覚えがあった。

「…まさか、お前。」

私の鼓動は一気に速まっていた。


















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